福岡高等裁判所 平成11年(行コ)32号 判決 2000年6月29日
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
(主位的控訴の趣旨)
1 原判決を取り消す。
2 本件を大分地方裁判所に差し戻す。
(予備的控訴の趣旨)
1 原判決を取り消す。
2 A事件
(一) 被控訴人aは、大分県に対し、八億円及びこれに対する平成九年四月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 被控訴人県知事は、別府市に対し、「立命館アジア太平洋大学進出関連特別貸付」として、市町村振興資金を無利子、償還期間一五年という特別な条件で貸し付けてはならない。
(三) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
3 B事件
(一) 被控訴人aは、大分県に対し、六億円及びこれに対する平成一〇年四月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人aの負担とする。
4 C事件
(一) 被控訴人aは、大分県に対し、五億九九五〇万円及びこれに対する平成一一年四月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人aの負担とする。
二 被控訴人ら
主文と同旨
第二当事者の主張
一 当審における新たな主張
1 控訴人
原判決は、特別裁判所による裁判であって、違憲である。
即ち、大分地方裁判所は、平成一一年四月の裁判官の配置により、以前に同裁判所民事第二部の左陪席であったb判事補が刑事部の左陪席に、以前に刑事部の左陪席であったc判事補が民事第二部の左陪席となり、その後、c判事補が本件を除く民事第二部のすべての事件を左陪席として担当している。しかし、同裁判所は、b判事補を民事第二部にも重複して配置し、本件についてのみb判事補を引き続き担当させ、そのままb判事補を判決裁判所の構成員として原判決を言渡したが、その意図は、本件と争点が一部重複する事件(同裁判所平成九年(行ウ)第七号で別府市の立命館に対する補助金支出の差止めを求める事件)の審理に左陪席として判決起案を主に担当したからに他ならない。しかし、このような裁判官の配置は、明らかに特定の訴訟に意図的に特定の裁判官をあてて当該訴訟を処理させようとするものであって、憲法七六条二項の特別裁判所の設置の禁止に違反している。よって、原判決は憲法に違反する裁判所によるものであるからこれを取り消し、原審に差し戻すべきである。
2 被控訴人ら
特別裁判所とは、明治憲法下の軍法会議などのように、特殊な人または特殊な事件について、通常裁判所の系列の外に設けられる特別な裁判機関をいうのであって、原審裁判所が特別裁判所に該当しないことは明らかである。
二 その余の当事者の主張は、次のとおり付加訂正するほかは原判決事実摘示(四頁末行から二六頁五行目までの記載)のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決一四頁末行の次に行を改めて次のとおり加える。
「 なお、その後、被控訴人ら主張の経緯により、五億円の貸付が実行されたことは認める。 」
2 同一七頁七行目から一八頁七行目までを削除し、八行目の「2」を「1」と改め、一九頁四行目から一二行目までを次のとおり改める。
「2 なお、平成一一年度分の貸付けについては、平成一二年二月二九日に借入申込みがなされ、大分県は、同年三月二八日に五億円を貸し付けることを決定し、同年四月一八日、右貸付けを実行した。 」
第三証拠
原審及び当審の各記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 控訴人は、当審において、原判決は憲法の禁ずる特別裁判所によってなされたものである旨主張するが、被控訴人らが主張するように、特別裁判所とは特殊な人または特殊な事件について裁判するために通常裁判所の系列の外に設けられる特別な裁判機関をいうものであって、原審裁判所がこのような特別裁判所に該当しないことは明らかであり、また、甲三一号証によれば、平成一〇年一二月一七日の大分地方裁判所の裁判官会議の議により、b判事補を民事第二部に配置することが決議されていることが認められる(下級裁判所事務処理規則六条)から、同判事補が原判決に関与していることに何ら違法の廉はなく、控訴人の右主張は到底採用することができない。
二 そして、当裁判所も、A事件のうち、被告県知事に対する訴え並びにB事件及びC事件に係る訴えは不適法であるからこれらをいずれも却下し、A事件のうち、被控訴人aに対する請求は理由がないからこれを棄却すべきものと認定判断するが、その理由は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決の理由説示(二六頁九行目から六七頁四行目まで)のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決二八頁二行目の「本件貸付金の支出の相当の確実性」を「住民監査請求の前置について」と改め、三行目から二九頁六行目までを次のとおり改める。
「(一) 地方自治法二四二条の二第一項一号の差止請求訴訟は、未だ行われていない財務会計上の行為の差止めを求めるものであり、同法二四二条一項が、このような財務会計上の行為について、「当該行為がなされることが相当の確実さをもって予測される場合」には、これを対象として住民監査請求をすることができるとしていることからすると、右のような場合であることが、差止請求訴訟に前置された住民監査請求の適法要件になると解される。
そして、右の適法要件にいう「当該行為」とは、同法二四二条一項にいう公金の支出等の財務会計上の行為のうち違法なものをいうのであるから、住民監査請求の適法要件としては、当該財務会計上の行為が違法に行われること、すなわち、控訴人ら住民が違法の根拠として主張する事実を伴ってなされることが相当の確実性をもって予測される場合であることが必要であると解される。
また、右にいう「相当の確実さをもって予測される場合」とは、当該財務会計上の行為にかかわる諸般の事情を総合的に考慮して、当該行為が違法になされる可能性、危険性が相当の確実さをもって客観的に推測される程度に具体性を備えている場合をいうと解するのが相当である(以下、右要件を「相当の確実性の要件」という。)。」
2 同三三頁一〇行目の「18、」の次に「六〇、」を加え、同三四頁一〇行目を「平成一一年度 あり 五億円 平成一二年二月二九日」と改め、同三七頁二行目から八行目までを削除し、九行目冒頭の「(一)」を「(四)」と、三八頁三行目の「(二)]」を「(五)」と、三九頁一〇行目の「(三)」を「(六)」と、「前記(一)の事実に前記l」を「前記(一)ないし(四)」とそれぞれ改め、同四〇頁四行目から七行目までを次のとおり改める。
「 したがって、A事件のうちの本件差止請求訴訟、B事件及びC事件に係る本件代位請求訴訟は、適法な住民監査請求前置を欠いており、いずれも不適法である。」
3 同八行目の「(四)」を「(七)」と改め、同四一頁八行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「(八) なお、平成一一年度分の貸付が、平成一二年四月一八日に実行されてしまったことは当事者間に争いがない。そうすると、控訴人が差止の対象とした行為は既に完了し、差止の余地がなくなっているから、本件差止請求訴訟は、この点からも不適法である。」
三 以上の次第で、原判決が、本件訴えのうち、B事件及びC事件に係る部分並びにA事件のうち被控訴人県知事に対する訴えを不適法としていずれも却下し、A事件のうちその余の請求を理由がないとして棄却したことは相当である。
よって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 近藤敬夫 裁判官 萱嶋正之 裁判官 石川恭司)